Translate

2018年7月20日金曜日

ロシアW杯 総括

祭りが終わり、虚脱感と寂しさがやってくる。 同時にほとんど崩しかけていた体調が徐々に回復し、真夏の遠征にそなえてエネルギーを充電する。

W杯って本当に面白い。フットボールの質 でいえば、CLやプレミアのほうが高いのに、この祭典に魅了されるのは、そこに国を背負った男たちのドラマが凝縮されているからだろう。 単に自分と家族が食べるため の所属クラブならば、クロアチア代表の面々があれほど走るとは思えない。

日本のゲームをのぞき、印象に残った好ゲームは、ドイツの3ゲーム(メキシコ、スウェーデン、韓国) スペイン—モロッコ、ポルトガル—イラン、ブラジル—コスタリカ、決勝トーナメントに入ってからは、クロアチア—デンマーク、フランス—アルゼンチン、ブラジル—ベルギー なんかは殊更に面白かった。点の取り合いとなった ポルトガル—スペイン もエンターテイメントとしてはいいが、グループL初戦では、生か死か の悲愴感がない。

毎回いろんなことを学ばせてくれ、世界の潮流がどこに向かっているのかを教えてくれる祭典であるが、今回感じたことを。

それは、第三勢力の復権 であろうか。かつて 欧州vs.南米 の図式であって、後にアフリカの雄を巻き込み、アジアも力をつけてきたかに見えたが、4年前に惨敗し世界の勢力図から取り残されたかと思われた。今回、第一勢力を脅かし、決して 数合わせ ではない!ということを知らしめた。 日本は言うに及ばず、イランはポルトガルに本気で勝ちにいってたし、韓国もドイツ相手にほぼ望み薄にもかかわらず、(絶対点をやらない!) という気迫で守備をしていた。 かつては優勝経験国と優勝候補の第一勢力、それに準ずる第二勢力、そしてアジア、オセアニア、北中米(メキシコなど一部を除いて)は 第三勢力 と思われていた。一vs.二、二vs.三 で番 狂わせ はあって も、一vs.三ではほとんどなかった。それが今回は日本は言うに及ばず、イラン、サウジ、韓国も勝利をあげているし、しかも第一勢力相手にガチンコで分けたり、勝ちきったりした。もはや第三勢力というカテゴリーはないに等しい。前回ブラジル大会のコスタリカ、今回の日本。世界が予想だにしないミラクルを起こした国はわずかだったが、次回からはもっと増えるんじゃないか。今から本当に楽しみだが...カタールの冬か...ないな。そろそろ日本も「死の組」に入る頃合いだろうし(笑)

2018サムライinロシア 3

そしてベルギー戦。 魂のこもった戦い、心を揺さぶられたベストバウトだった。 8年前のパラグアイ戦よりも、はるかにエイトに、いや世界に近づいた瞬間だった。ただ、相手が上だった。ベルギーのサブを含めた戦力を数値化するならば、ドイツ、フランス、ブラジルと並んで実力世界4強の力があっただろう。まだそこまでは及ばないということだ。しかしそれに次ぐ 8強 の仲間入りならば十分に狙えることを世界に知らしめた。偶然の出来過ぎの1ゲームではなく、真の強国の仲間入りを列強が認めつつあるところまできた。20年前、ヒデが感じてたこと。4年前、本田や香川や長友らが抱いていた期待。それが幻想でなく現実のものとなった。日本でも、日本人でも 十分に世界と伍する戦いができるのだ、という。

最高の才能をそろえても、チームになりきれなかった'06年。チームの和を重視し守備を固めて16まで登ったが、チーム力として8強とはギャップがあった'10年。集った才能がチームとなりもっとも期待感を抱かせたが、初戦のメンタルですべてを失った'14年。初出場から20年の歳月を経ていろんなことを学んだ。だがもっとも変わったのは選手のメンタリティだと思う。今回躍動した20代の選手たちは、物心ついたときから日本代表がW杯に出場し、欧州でヒデ、小野伸二、俊輔らが活躍しているのを目撃している。そして中学・高校時代から世界を意識し、今は欧州のプロフェッショナルとしてフットボールで飯を食う。我々オールドファンのような世界への過剰な恐れなどない。 すなわちほとんど全員がヒデの肌感覚を無意識のうちに持ち合わせているということだ。

ただしこれで (次は8強だ!) などと世界をナメてはいけない。メンタルとして、ようやく欧州の中堅どころと並んだに過ぎない。上にあげた4強に、ベスト4に入ったクロアチアにイングランド。イタリア、オランダ、アルゼンチン、スペイン。さらには南米やアフリカ勢にメキシコ、USA。打ちのめされてもまったく不思議でない国々はいくらでもある。組み合わせの運に恵まれ、本大会での幸運を授かり、ようやく見えてくるのが8から先の風景だ。
平均寿命で尽きるとして、あと楽しめるW杯は7回か...。アジア予選は行けるだろう。4回はグループL敗退だ。3回突破して、うち一度くらいは4強まで行けんかな。いずれにせよたしかなことは、老後の楽しみは存在する ということだ。一人くらい関わった選手が活躍するシーンでも見られんかな。実現したらホントに死んでもいいんだけど。

2018サムライinロシア 2

まず、確実に失敗すると断言した代表が、結果としてベスト16に進出したことには驚きを禁じえないし、素直に謝罪したい。
では、今大会のチームづくりと戦い方が成功だったのか というと、それもまた答えはでないと思う。なぜならコロンビア戦開始数分の PK → 退場 のスペシャルプレゼントが結果に多大な影響を及ぼしたのは確かだからだ。あれがなければ勝ち点3が手に入ったか甚だ疑問だし、その後の戦いがどうなっていたかわからない。大迫の突破やゴールはたしかに見事だったが、世界のメディアが書き立てたように、あれはコロンビアの自爆だった。

その一方で、セネガル戦は素晴らしかった。ミスで重ねた失点を迫力ある攻撃で取り返した、という目に見える形ではない。4年前、コートジボワールの前に、あきらかに腰が引けた戦いをした似たようなメンバーが、堂々と対峙し、ボールを動かし、相手をコントロールし、攻め、仕掛け、崩し、そしてアグレッシブな守備をする。格上と思われていたアフリカ勢に一歩も引けを取らず、いやむしろ飲んでかかっていた。彼らの心境の変化か、西野さんの魔法の話術か、とにかくこのメンタリティが本当に素晴らしかった。

そして最終節ポーランド戦。すでに 死に馬 となっていた欧州の古豪には圧勝の予感すら漂ったが、待っていたのは違った現実だった。敗北したこと ではなく、決勝トーナメントを見すえ主力を温存する、というかつてこの国になかった選択と、バックアップメンバーでは、死に馬にさえ蹴られるのか という現実だった。
ラスト十数分の 試合放棄 はありえない。女子アジアカップの日豪戦の最終盤のような、(握手して互いに次ラウンドへ行こう) というなら十分に理解できるし、今なら小学生でさえ時間を使っての逃げ切りはスタンダードだ。しかし、自らの命運を、セネガルの攻撃力vs.コロンビアの守備力 という天秤にかけて祈る なんて選択は普通はできない。 1点を取るために、スキルと戦術を磨きに磨き、緻密に計算しつくしてゴールまでの道のりを構築する日本と違い、相手のわずかなミスをつき、あるいは一瞬の走力や異次元のパワーでビルドアップを省略してゴールを陥れるセネガルだ。もしもアディショナルタイムにセネガルが追いつき、日本が敗退 という結末が待ち 受けてい たら、心に残るわだかまりはいかほどのものだったろうか。ポーランド戦で1点を取りにいき、逆にカウンターで失点し敗退する。どちらもありうる可能性だが、胸を張って帰れるのははたしてどちらだろう。私にはできない。私にはできないが、そのギャンブルに挑み、勝った西野監督を心底尊敬する。

2018サムライinロシア 1

大昔の野球の話で恐縮だが、広島にいた 安仁屋 という沖縄出身の選手が活躍したとき、地元では大騒ぎだったそうだ。島人(しまんちゅ)の若者が、本土で通用するなんて信じられない! なんて感じで。
時は流れ、沖縄の高校が甲子園で優勝しても誰も不思議と思わず、出身選手がプロで活躍しても騒ぎにもならない。当然だ。同じ人間、同じ日本人、という フラットな目線で見ているし、そこにはリスペクトとか差別とかの感覚もない。
二十数年前、野茂がアメリカに渡った時もそうだった。日本人がメジャーでやれるのか?という懐疑心の中で彼が活躍し、その後続いた大勢の日本人選手が、同じベースボールプレイヤーとして互角に渡り合えることを証明した。今ではダル、マー君、オータニらは活躍して当たり前、メジャーの中でも 一番 を期待してしまう国民さえ多いだろう。わずか二十年で日本人の能力が飛躍的に上がるわけはなく、これは単に意識が変わっ た に過 ぎない。(こんな小さな島国の人間が、大陸の欧米人に勝てるわけがない) という敗戦国の卑屈さも手伝って、過剰にリスペクトしていた時代から意識が変わっただけなのだ。

サッカーにも同じことがいえる。奥寺、尾崎が欧州に渡ったときは、ごく一部の特別な選手しか通用しないだろう と思われていたが、現在では (日本人でもフツーに通用する) という感覚に変わっている。 身長や体格・パワーが幅を利かせるNBAバスケやヘビー級ボクシングならいざ知らず、サッカーにおいては フィジカル・スピード だけじゃない部分で十分に渡り合える、ことに気づいたのだ。
最初に気づいたのはヒデだった。U17、U20のワールドユースで世界を体感した彼は欧州・南米・アフリカの選手と対峙し、過剰なリスペクト(恐れ)を抱かず、自分(たち)のやれるこ と、かなわないこと をフラットに見極めた。結果、28年ぶりの五輪で、過剰な恐れを抱いていた西野(ロシアW杯代表監督)と衝突し干される羽目になった。
あれから22年。まことに皮肉なことに、その西野さんが率いる代表が、世界を驚かせた。